エコーチェンバーとフィルターバブルがもたらす新しい形のSNS疲れ「無意識の思想の矯正」
こんにちは、文通アプリ「レイター」の開発者です。
みなさんはX(Twitter)は普段利用していますか?
私も普段から利用していますが、2024年3月現在、Xを利用することによるストレスを強く感じる瞬間が増えてきました。
SNSの普及により、イイネやインスタ映えを気にしてしまうSNS疲れという現象が生み出されましたが、ここ最近はそれとは別種の新しいSNS疲れが発生していると感じます。
これまでのSNS疲れは「承認欲求」によるものでしたが、今起きているSNS疲れは「無意識の思想の矯正」とも呼べるものだと思っています。
この記事では無意識の思想の矯正とは何か、なぜそれを引き起こす投稿ばかりが増えているのかについて、エコーチェンバーとフィルターバブルにも絡めて語ってみようと思います。
無意識の思想の矯正とは
「無意識の思想の矯正」とは私が作り出した造語です。
自分自身の思想が、SNSからの影響で知らず知らずのうちに自分の意思とは関係なく影響を受け矯正されてしまうことを「無意識の思想の矯正」と呼んでいます。
例えば、これまで男女平等問題に良い意味で肯定的な意見も否定的な意見はなかった人がいるとします。
その人は男女の不平等について強く意識することもありませんでしたが、男女平等の問題について肯定的な意見も否定的な意見の両方があるのをなんとなく理解はしている、というような状況です。
しかし、今のXでは男女平等の問題について「男尊女卑」だとか「女尊男卑」だとかのレッテルをお互い張り、論争をしたり対立を煽る投稿を目にしない日はありません。
これまで男尊女卑に意見を持ってなかった人も、それを何度も目にすることで、「男尊女卑」か「女尊男卑」のどちらかの考えを無意識に取り入れさせられしまいます。
その人の人生の中では「男尊女卑」か「女尊男卑」は大きな意味を持っていなかったのに、Xの影響で強制的に思想を矯正させられてしまうのです。
Xを使っている人なら思い当たる節があるのではないでしょうか?
私の友人でも「Xを見ているうちに気がついたら男女の奢り奢られ問題について論評をしていた。でも思い返してみれば元々はそんなことはどうでも良いと思っていた」という話をしてくれた人がいます。
無意識の思想の矯正のストレス
では、なぜ無意識の思想の矯正が起きるとストレスを感じるのでしょうか?
以下の3つ観点から説明してみようと思います。
- 余計な思考にエネルギーを使わされる
- 本来の自分との矛盾を感じる
- 好きだったものを純粋に楽しめなくなる
余計な思考をさせられることによる疲弊
これはそのままの意味です。
人間が思考できる量は限られています。
にも関わらず、X上の論争を目にすることで、強制的にその問題について思考をさせられるため疲れてしまうのです。
本来の自分との矛盾によるストレス
人は矛盾している事実を感じるとストレスを覚えます。
それを認知的不協和といいます。
例えば「お酒は好きだけど、お酒は害があるとわかっている」という状況は認知的不協和によりストレスを感じる可能性があります。
無意識の思想の矯正でも同じことが起きます。
本来自分はそのトピックについて中立的な考えを持っていたはずなのに、強制的に肯定派か否定派のポジションを取らされてしまうことで、本来の自分の人格との矛盾を感じ、ストレスを覚えるのです。
好きだったものを純粋に楽しめなくなる辛さ
好きだったものに対して、余計な角度からの考えをもってしまうことで(特に否定的な考え)、純粋に楽しめなくなってしまうこともあります。
例えば、純粋に韓国ポップカルチャーが好きだったのに、SNS上に溢れる嫌韓思想に触れてしまったことで、韓国のカルチャーに触れる時に毎回政治的な感情がよぎり、これまでのように楽しめなくなるというような状況が考えられます。
なぜ論争を起こすような投稿が増えるのか
次に、なぜXでは無意識の思想の矯正を引き起こす、論争や対立煽りのような投稿が増えているのかを考えてみようと思います。
アルゴリズムがそうなっているから
まず、元も子もないですが、現在のXのアルゴリズムが論争を起こすような投稿を評価しているからというのが大きいです。
現在のXのタイムラインは「おすすめ」と「フォロー中」の二つに分かれており、「おすすめ」のタイムラインにはXのアルゴリズムによってキュレーションされた投稿が並んでいます。
そのアルゴリズムの詳細については割愛しますが、簡単に言えば「エンゲージメントが高い(他のユーザーからの反応が多い)投稿が表示されやすい」というアルゴリズムです。
「他のユーザーが興味を示したなら、それは興味深い内容なんだろう」という考え方ですね。
そうなるとどうなるかというと、何に対して批判したり、対立を煽る投稿はエンゲージメント(いいねやリプライ、リポストなど)が高まりやすくなります。
なぜなら、その意見に賛同する人によるいいねやリプライだけでなく、反対する意見を持つ人からのリプライや引用リポストでの批判も集まりやすいからです。
後述しますが、得にこの「批判してやりたい」という動機が強烈で、反対意見を持つ人からのエンゲージメントが集まりやすく、その結果、その投稿は多くの人のタイムラインに表示されやすくなります。
脳の報酬系による投稿内容の先鋭化
人の脳には報酬系と呼ばれる、欲求が満たされたときや満たされるとわかったときなどに活性化して、幸福感や気持ちよさを引き起こすシステムが備わっています。
何かに対して批判的な投稿をしたユーザーは、前述のアルゴリズムの影響で、いわゆる「バズる」という体験をしたり、そこまでいかなくともいつもより高いエンゲージメントを得る体験をすることになるでしょう。
そうなると、そのユーザーの報酬系が刺激され、「また同じような投稿をしよう」という動機が生まれ、どんどん投稿内容が先鋭化していきます。
また、そのような状況になってもエコーチェンバーと呼ばれる現象によって、自分の意見が先鋭化していることを本人は自覚することができません。
エコーチェンバー」とは、ソーシャルメディアを利用する際、自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたものである
出典:総務省「インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114210.html)
フィルターバブル化による村社会の再現と魔女狩り現象
人類は昔から魔女狩りのように、そのコミュニティに対しての異物を排斥することで安心感を得たり、恐怖心の捌け口としてきました。
現代でも排他的な村社会などは残っており、その性質は変わっていないと言えるでしょう。
特に他者を批判することは劣等感を埋めたり、日常で得られないカタルシスを得る手段になり得るので、この「誰かを批判したい」という欲求のもつエネルギーはとても大きいのです。
SNS上ではフィルターバブルと呼ばれる現象によって、人々は無意識のうちに同質の考えを持つ人々に囲まれ、共有のイデオロギーをもつ村に所属することになります。
「フィルターバブル」とは、アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を指す。
出典:総務省「インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114210.html
村が形成されると、そこから異物を排斥しようという働きが生まれ、魔女狩りのように他者を攻撃し始めるのです。
自分と同じ意見を持つ人たちと一緒に、異物である誰かを攻撃することは、さぞかし強い快感を与えるでしょう。
ちなみに、このような現象はXに強く見られますが、それはXがインフラレベルに普及しており、多種多様な人たちが使うプラットフォームになっているためです。
Aという意見を賛成する人も反対する人の両方が存在していなければ、このような現象は起きませんが、両方の立場のコミュニティが薄い壁一枚で隣接しているのがXというSNSの特異性です。
文字数的に誤解を生みやすいから
これまでの議論から少し外れますが、Xが基本的には140文字までしか投稿できない制約があることも、論争が起きやすい原因の一つだと考えます。
文字数が限られてるせいで
- 伝えたいことを正しく伝えられない
- 一部分だけを読んで短絡的に反応をしてしまう
という誤解によるすれ違いをよく見かけます。
これまでの内容が「Xで火がよく燃える理由」だとしたら、文字数が限られているという仕組みは「Xで火花が起きやすい理由」だと言えるでしょう。
無意識の思想の矯正から逃れる方法
最後にどうしたら無意識の思想の矯正から逃れることができるかを考えてみようと思います。
一番は「Xを見ないこと」だと思います。
とはいえ、X上で大事なコミュニティがあったり、日常的な情報ソースをXに頼っていたりで、Xから完全に離れるのは難しいですよね。
そういう場合は二つの対処方法が考えられます。
ミュート機能を躊躇なく使う
まずはミュート機能を躊躇なく使うことです。
何か自分の思想にネガティブな影響を与えていると感じる投稿があれば、躊躇なくその投稿主のアカウントミュートしましょう。
先に述べた投稿内容の先鋭化の仕組みにより、そのようなアカウントの大部分は日常的に毒を吐いてます。
そのアカウントの投稿を見るたびにあなたは疲弊することになるため、躊躇なくミュートをすることを推奨します。
無意識に影響を受けていることを自覚する
もう一つが、自分が無意識に影響を受けていることを自覚することです。
自覚をすることによって、Xから受けた影響と、元からの自分の人格を切り分けて捉えることができるため、矛盾を感じづらくなります。
まとめ
以上が無意識の思想の矯正が引き起こす新しいSNS疲れと、その原因となる論争するような投稿が増える理由についての私なりの考えでした。
この記事を読んでいるということは、あなたもおそらく日常的にSNSを使っている方だと思います。
この記事が新しい形のSNS疲れについてあなたなりの考えを持つきっかけになり、無用なSNS疲れを感じなくなる手助けになれば幸いです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
なつ
文通アプリ「レイター」の開発と運営。普段はITエンジニアや会社経営をしています。SNSやそれを取り巻く文化が好きで、メジャーなSNSからマイナーなSNSまで様々なアプリを自分で使って試しています。